ちっぽけなこと

両親が離婚したあと、しばらく俺は施設に預けられた。

おそらく、母一人の稼ぎではまともに生活できなかったのだろう。数カ月に1回、面会に来るたび

 

「絶対に一緒に暮らすから、お金が貯まるまで待っていてね。ごめんね」

 

と言っていた母。

 

施設に預けられて2年後、ようやく施設を出られることになった。小学校3年生の時だった。

 

嬉しかったのもつかの間、母は俺を育てるためにひたすら働いていた。

新聞配達をしてから工場でパート、夕方ちょっと戻ってきて夕飯を用意したら、すぐに夜勤の仕事……。顔を合わせられるのは毎日30分もあるかどうかで、当然、ご飯は出来合いのものばかり。遠足でさえ、朝早くでも調達できるコンビニ弁当が定番だった。

 

でも、母は必ず皿や別の弁当箱に盛りつけてくれていた。

 

ある時、親戚の叔母さんが母を軽蔑するように言った。

 

「食事くらいきちんと作ってあげなきゃねえ…。」

 

俯く母を前に、俺は思わず叔母さんに掴みかかっていた。母は泣きながら俺を止めた。

 

俺にとって、母が用意してくれる出来合いのものは生きるためのエサではなかった。れっきとした「食事」だった。人からすれば気がつかないほどちっぽけなことが、大きな違いになることってあるんだ。

 

2年前、俺は結婚した。妻は俺の生い立ちを知って、

 

「あなたのような人を育ててくれたお義母さんに感謝している。」

 

なんて言ってくれる。

 

妻の申し出で、昨年から年に数回児童養護施設の子どもを家に招く週末里親をはじめた。小学一年の男の子だ。やんちゃでかわいい普通の子だ。

 

俺たちは「ちっぽけなこと」で人生が変わるかもしれないと思いながら、その子が来るのを楽しみに待っている。

 

 

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